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追想

レイカがでっちあげた婚約者の話
(レイカサイドではもうちょい手前から数話分やる)




魔界の屋敷の庭を歩く秋良。(たぶん公務中の休憩)

このところ、魔王の力が強くなっている…。
何故だ。
空想世界を支配している闇の力が強まってしまったからか。
それとも…。(空を見上げて)
無理矢理引き延ばした体でさえ、長時間持ち堪えられなくなっていた。

ため息をつき、視線を落とす。
庭はユサが手入れをしてくれているが、僕は庭に出る事にあまり気が進まないでいた。

「花はどうにも、苦手でね」

花自体が苦手なのではない。
過去のあの、火の海になった花畑がよぎって、見るに耐えなくなるのだ。
花に罪はないのに。柔らかく色づく綺麗な花びらを見るだけで、嫌な気持ちが支配する。

レイカに先日、「あきらちゃんは好きな人いないのー?」などと言及されたが、
僕は、可憐なものに手をつける気になれない。
僕の、この力で、壊してしまうから。

屈んでいた姿勢から、そっと立ち上がった。

「あっいたいた!」
庭の外からあきらちゃーん!と呼ぶ、レイカの声が聞こえる。レイカが庭の中まで入ってくる。

「何の用だい?」
「ふっふーん!今日のレイカはとってもいい子だよっ!!挙式する時は絶対レイカも呼んでねっ!」
「うん?」
こっちこっち、とレイカの呼ぶ声につれられて草木の影から、一人の人間が姿を現した。

「じゃじゃーん!連れて来ちゃった!!」

その覚えのある姿に、目を見開いた。

しかし、それは、僕が隠し持っていた写真に写っていた、
(もう失ってしまった記憶の中の一人であろう)女に”そっくり”の人物だった。

ああ。合点がいった。
レイカはあれを、僕の婚約者だと勘違いして。
わざわざ似た人物を探し出して連れて来てしまったのか…。
そして僕と婚約させる気でいるのか…。

あまりにも強引だ。
イタズラをした時はすぐその場で咎めていたのだが、これは…。
ついてきてしまった人間も人間だな。
悪の魔王と悪魔の恐ろしさを知らないのだろうか。
少し、困らせてやろう。何、すぐに解放してレイカを叱りに行くよ。
この場で叱ったら余計こじれて時間がかかるというのもあるしね。
一言も発さずにそわそわと庭の端に目を移す人間を見て、心に決めた。

「ああ。随分と”似た”人材を連れて来たね?レイカ」
「んっ?」
「今のうちに心の準備をしておくといいよ」

怖い目でレイカを見た後、今度は人間に視線を贈る。
真っ直ぐに見つめられた人間は、一瞬肩が飛び跳ねたようにも見えた。

「それにしても、だ。こんなところまで良く来てくれたね、お嬢さん」

近づきながら、そう、落ち着きのある声色で囁く。

「婚約の件は置いておくとして。うん。とても綺麗で、可愛いね。僕と遊んで行かないかい?」
「え、あ…」
「気に病む事はないよ。君もすぐ、心変わりするさ……」

接近した僕に、人間は一歩後ずさりそうになった。男慣れしていないのだろうか。
人間は上目遣いで、少し頬を赤らめながら黙る。
穢れを知らない純粋な仕草に、可愛らしさを感じ、抱擁する。
体格差のせいですっぽりと覆われてしまう。
久々の…人肌の感覚だ。心が逆撫でられる。
後ろからキャー!という悲鳴も聞こえてきた。
背中に回す手はそのままに、硬直している人間から少しだけ体を離した。

「抵抗しないのかい?面白いね」
「…っ」
「お嬢さん、名前は?」

「し……、ハル。ハルです……」

おや。その声に少しだけ違和感を感じた。が、そのまま会話を続ける。
「……なるほど?」

「レイカ、耳がおかしくなるから叫ぶのをやめてくれるかな?」
「にゃっ、にゃにゃ!」
「…少し空気を読もうか」
人間の肩を抱き寄せてレイカに見せつけ、もう片方の手を上向きにかざす。
もちろんこの姿ではやらないのだが、魔王の時によくやっている、力を振りかざす時の構えだった。

「おっけぇ、あとは若い二人でごゆっくり〜〜…!!」

そう、興奮してるのか怯えてるのか分からない顔でレイカはすっ飛んでいった。

「さて、悪かったね。ええと…ハル……君、かな?」
「あ……」

心臓の音が聞こえてきそうなくらい動揺している。
しまった、という顔をして立ち尽くす女の姿の少年に、顔を近づけて再び囁いた。

「気にすることはないよ。着飾らなくても、君は十分可愛らしい」
「ほ、褒められても嬉しくない……」
「おや?乗り気ではなかったのかな?」
「はあ…?そんなわけないだろ。というか、お前が魔王…なのか?」

今度は僕の、心臓の音が鳴った。

「僕は魔王の側近のような者だ」

違う、とは言えないが、嘘でもない。しかし真実でもない。

「そんな格好をしてまで魔王城に忍び込むとは、なかなかだね。
いいだろう。魔王に、何の用があったんだい?」

尋ねると、少年の顔がぱあっと明るくなった。
その子供らしい様子に一層、心が引きつけられた。

「オレ、魔王に会いたいんだ。どうしても、力を貸して欲しくて…」
「そうか。貸してくれるかは分からないけれど、魔王に代わって僕が聞き入れよう。
立ち話も疲れるかな?詳しい話はーー」

そこまで会話をして、ザザッと影が形成される音が響いた。
僕と少年の真横に現れた悪魔、門番が叫んだ。

「魔王様!緊急事態ッ……」

が、見知らぬ少年の姿を見て、口をつぐんだ。

「…レムリリア。”次はない”と言ったよね?」
「はっ……」
「で、緊急というのは?」

「魔界中央広場にて、白い片翼の少女と悪魔が交戦中で…」
「「!!」」
「至急同行を」

まさか。彼女が…。

「分かった、すぐ行く」
「あの…、それ本当か……」
「のようだね。君は魔界の外まで逃げるといい。じきここも、戦場になる…」

「送っていけなくて悪いね」

そう言い、影を纏う。
霧散していく姿を見て、息を飲む少年。
そこに先程までの穏やかな青年の姿は無く。
冷酷な面を貼り付けた王の姿がちらつき、宙に消えた。





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2019-10-06